例1 顔が赤い,かゆい,ジクジク液が出て,外出できない! |
Kさんは24歳のOL。赤ちゃんの頃から全身あちこちの湿疹を繰り返していました。このためステロイド軟膏を常用し、症状をおさえていました。 3年前頃から急に湿疹が悪化し、顔、首、耳の後ろ、腕などに、赤み、かゆみが強く出てきました。 掻くと、薄い皮がボロボロはがれ落ち、ジクジク液がしみ出て、えりやそでは黄色くなります。ステロイド軟膏を塗ってもあまりよくなりません。 このため、外出するのも恥ずかしく、会社はやむなく長期欠勤しました。去年の春を過ぎてからは湿疹はかなり好転しましたが、例年より悪い状態でした。 今年の春にはまたしても湿疹がかなり悪化してまたまた欠勤。病院で検査したところ、ハウスダスト、ダニ、花粉、牛乳のアレルギー反応が強く出ました。 これらが湿疹の原因とのことで、春に悪化するのはスギ花粉のせいでした。 治療はステロイド軟膏を塗りながら、抗アレルギー剤を続けるとのことでした。しかし、その後も湿疹はひどく、家に引きこもりがちです。 |
例2 皮膚がガサガサ,薄いフケのようなものが落ちる,皮膚が赤くなってむしょうにかゆい,皮膚に亀裂を生じる |
Yさん(35歳、男性) 小さい時からのアトピー性皮膚炎で苦しんでいます。小学校、中学校の頃までは皮膚は赤く腫れあがり、かゆみがひどく、分泌物が出てジクジクし、見るも無残な状態でした。それが20歳を過ぎる頃から、次第に分泌物は減り、かえって乾燥
してカサカサになってきました。 現在は分泌物は全然ありません。今一番悩んでいることは、皮膚が赤くなってほてりがあり、フケみたいなカサカサした白片があたり一面にこぼれ落ちることと、ひどくかゆいことです。 全国各地の病院にも行ってみましたが、基本的にはステロイド軟膏、抗ヒスタミン剤の内服、皮膚に潤いを与える軟膏の三種でした。 毎年春から夏にかけて症状はひどく悪化し、今日に至るまで苦しんでいます。 私の人生は、30数年間アトピー性皮膚炎との戦いでした。 |
・ アレルギーが原因するもの | ・・・ | 湿疹、皮膚炎、じんま疹 |
・ 化膿菌によるもの | ・・・ | おでき、丹毒、その他 |
・ ウイルスによるもの | ・・・ | 帯状疱疹、単化性疱疹 |
・ カビによるもの | ・・・ | みずむし、たむし、その他 |
アトピー性皮膚炎とは分かりやすくいえばある特定の物質に対する遺伝性過敏症により引き起こされる皮膚炎のことで、なかなか治りづらいものです。
本人及び家族に喘息やアレルギー性鼻炎などがあり、この素因は遺伝し、この家族の人は食物や吸収された抗原に対して、高度の過敏性を生じやすく、アトピー抗体を血中に生じ、また種々のストレスにより免疫の異常を生じやすい。
ある特定の物質たとえばスギ花粉が人の身体に侵入してくると、アレルギー反応を引き起こし、その結果として花粉症のいろいろな症状が現れる。
この時、身体の中ではどんなことが起こっているのでしょうか?
免疫反応が過敏に起こること
普通一般の人は何でもないのにアレルギー体質の人は、ちょっとした刺激(たとえば花粉、ハウスダスト、排気ガス、卵、牛乳など)によってもすぐ自分自身と違った侵入者と見なして、身体に具わった免疫反応によって過敏に排斥作用を起すのです。
アレルギー体質の人は、生まれつきの素質を持っています
アレルギーの体質の人は、外からの刺激(侵入者)を防御する第一線の防衛城壁が生まれつき低く作られていて、すぐ低い防衛城壁を飛び越えて過敏な免疫反応を起すのです。
免疫の機能を、平衡な正常な安定した状態に保つこと
アレルギーの人は、免疫の機能をコントロールする胸腺で作られるTリンパ細胞の力が減退し、配下のBリンパ細胞の働きが増高し過敏になっています。
そこで、低下したTリンパ細胞の機能を活性化し、過高のBリンパ細胞の機能を下降させることです。
そしてはじめて、免疫の機能を正常に安定させることができます。
「食べてはいけない」、「触ってはいけない」
アトピー性皮膚炎の予防として、二つの「禁忌」が行われています。特に「食べてはいけない」ということは、アトピー性皮膚炎では欠かせないことの一つになっています。
一般にタンパク質の卵、牛乳などは代表的な物の一つです。ひどい場合は米自体も制限物質の中に含まれます。こうやって制限物質を増やしていくと最後には食べるものがなくなってしまいます。
このようにして次々と制限していくと、身体全体の栄養状態が低下していき、外からの刺激に対して抵抗力がなくなり、ひいては胸腺の発育も低下し、Tリンパ細胞の免疫機能が衰え、免疫反応が乱れてきます。局部のアレルギー状態は改善されますが、身体全体の抵抗力、免疫機能は低下し、結果的には本来のアトピー性皮膚炎の改善にはつながりません。
アトピー性皮膚炎の予防には、この二つは極めて大切なことですが、これが最善の道ではありません。
一般に今日では次の薬が用いられています。
抗アレルギー薬(マスト細胞脱顆粒抑制薬)
即時性のT型アレルギーに属するアトピー性皮膚炎で、抗原とIgE抗体がマスト細胞上で抗原抗体反応を起こし、化学仲介物質のヒスタミン、セロトニン、SRS-Aなどが血中に放出される。この場合抗アレルギー薬を投与すると、これらの化学仲介物質の放出が抑制される。
抗ヒスタミン薬
アトピー性皮膚炎で、抗原抗体反応を起こし化学仲介物質のヒスタミン、セロトニン、SRS-Aなどが血中に放出される。
この際、だまって放っておくと組織のヒスタミン受容体とすぐ結合してヒスタミン作用(炎症、腫れ、かゆみ)が起こってくる。ここで、抗ヒスタミン剤を投与すると、ヒスタミンとヒスタミン受容体の間に割っては入って、ヒスタミン作用が発症する前にヒスタミン受容体と結合して、ヒスタミン作用を消失させてしまう。
これが抗ヒスタミン薬の作用です。
副腎皮質ホルモン
主に副腎皮質不全に用いられるが、一般に種々の炎症性疾患やアレルギー性疾患に用いられます。
アレルギー性疾患、リンパ性腫瘍疾患、炎症性眼疾患、ネフローゼ症候群、リウマチ性疾患(膠原病)、アジソン病などの治療副腎皮質ホルモンの投与にはかなりの副作用が見られるので、その使用にあたっては細心の注意をはらう必要があります。
そもそも、アトピー性皮膚炎というのはもともと遺伝的素因があり、そこに外の環境的要因が加わり、慢性になって湿疹を繰り返すというものです。日常エアコンなどを使用して乾燥肌になったり、大気汚染の増加、ストレスの感受など、社会環境の変化によって、アトピー性皮膚炎はますます増えています。とはいっても、最大の問題はマスコミや民間療法などで氾濫する情報によって、アトピー性皮膚炎ひいてはステロイドへの間違った考え方がまことしやかに宣伝されていることです。
ステロイド軟膏は、その強さによって使う部位を変えていかなければなりません。これはステロイドを使用するに当たっての一番大切なことです。
顔や首には強い作用のステロイドは避け、含有量の少ない副作用の少ないステロイド軟膏を使用します。体に使う強いステロイドを、間違って顔や首に塗ったら、症状が悪化します。また、急に止めると、必ず反跳現象(リバウンド)が現れて症状は悪化します。症状が軽快したら、順次強いものから軽いものへと、一般に比較的副作用の少ない軟膏に切り替えていき、次第につける量も少なくして、少しづつ使用を加減していきます。急に止めないことです。
アトピー性皮膚炎と副腎皮質ホルモン
脱感作療法
現代医学では、薬による対症療法のほかに、脱感作療法が行われています。これは抗原に対する過敏反応を弱めることをねらった、一種の免疫療法です。
簡単にいうと、抗原に身体をなれさせることです。その人に特定の抗原の薄めた液を定期的に皮下注射し、次第に濃くしていきます。週1回のペースで1年ぐらい続け、その後ペースを落として3年以上続けます。
この療法の問題点は、根気と時間が必要なことです。
漢方でアトピー性皮膚炎を治療する場合は、現代医学的免疫の考え方を充分ふまえて、治療に当たらなければなりません。
現代医学では、抗アレルギー剤、抗ヒスタミン剤、副腎皮質ホルモン剤が主に使用されていますが、漢方で使用される薬剤は極めて多い。これは、各々の症状、それぞれの個人の先天的体質、現在の身体の状態によって使う漢方薬が違うからです。
同じアトピー性皮膚炎であっても、色んな方剤を使用します。本病の発病原因は生まれつきの体質によるものが多く、それに風、暑、湿、燥、火の六種の邪と毒の侵襲、精神的ストレス、食生活の不摂生、特に風.湿.熱と毒が一緒になって身体の気血、陰陽の平衡がくずれて、かゆみ、赤み、痛み、灼熱感、分泌物などの症状が皮膚に現れて、様々な全身症状を伴うことになります。
漢方では、アトピー性皮膚炎は次のように考えています。
アトピー性皮膚炎は、一種のアレルギー性の皮膚病であり、先天的体質と、外からの毒邪と、身体内部の原因によって起こるものと考えられています。
アトピー性皮膚炎は、内は脾湿が運行せず、湿がたまって熱をもち、外からは毒邪の刺激を受けて、湿熱と毒邪が一緒になって、皮膚に様々な症状を起すものであると考えています。この中には、日光疹、薬物性皮膚炎、接触性皮膚炎も含まれています。
タイプ | 症状 | 風 | 熱 | 湿 | 毒 | 燥 | 陰 | |
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A | かゆい、赤い、熱もつ、腫れる | 分泌物 | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ||
B | かゆい、赤い、熱もつ、腫れる | 分泌物少し | ◎ | ◎ | △ | ◎ | ||
C | かゆい、赤い、腫れる | 分泌物少し | ◎ | △ | ◎ | |||
D | かゆい、赤い、熱もつ、腫れる | 分泌物なし | ◎ | ◎ | ◎ | |||
E | かゆい、赤い少し | 分泌物なし | ◎ | ○ | ||||
F | かゆい、フケみたいのこぼれ落ちる、皮膚乾燥 | ◎ | ○ | ◎ | ||||
G | かゆい、赤い、微熱、咽乾唇燥、皮膚乾燥、 フケみたいのこぼれ落ちる、滲出液 | ◎ | △ | ◎ | ◎ | ◎ |