人は誰でもいつまでも健康で長生きしたいと思うのが常である。しかし、人間はみな生きている限り老いていく。それは身体だけではなくて心も老いていく。
それでは、どういう経過をたどって老いていくのか、どう変化していくのかを探求していくことが必要になる。
急速に近づく高齢化社会を前に、国をあげてその対策に取り組み、介護保険が今まさに出発している。ここで、老化の仕組み、身体の衰えについて現代医学的見地から簡単に述べることにする。
人は昔から「不老長寿」を夢みてきた。戦後、日本では経済の成長と、医学の進歩、環境の変化で、寿命がグーンと延びてきた。しかし、「不老長寿」の夢は将来にわたってもかなえられないだろう。しかし、老化がどのような仕組みで起こるのかが分かれば、さらに寿命は延び、健康な老後を送れることになるはずである。
老化の仕組みを説明する「老化学説」には色々あり、一概にどれだとは決めることはできない。しかし、現在分かっている明らかな事実の一つは、細胞の数が減ることによる臓器の萎縮に他ならないということです。
下の表は各臓器の重さの変化を表したものです。
| 若年 | 老年 | 割合 | |
| 脳 | 1330 | 1260 | -5.3% |
| 心臓 | 250 | 350 | +40.0% |
| 肝臓 | 1230 | 830 | -32.5% |
| 脾臓 | 140 | 63 | -55.0% |
| 腎臓 | 130 | 105 | -19.2% |
老年と若年を比べると心臓を除いて、老年の方がすべて少ない。肝臓は67%、血液量の調整係の脾臓にいたっては45%にまで小さくなっている。これでは衰えるのも無理ありません。
心臓だけが逆に増えるのは、年をとるにつれて血管が硬くなって血液の流れが悪くなり、ポンプである心臓が一生懸命働かなければならなくなったからで、とても健康的な増加とはいえない。
それにしてもなぜ、多くの臓器が小さく軽くなるのか?
それは細胞が減るからに他ならない。
当然、次の疑問として「なぜ細胞が減るのか?」となる。それは、細胞中の遺伝子の本体DNA(デオキシリポ核酸)が常に色々なもので傷ついていくからだといわれている。
人間には、脳細胞のように分裂しない細胞と、皮膚や粘膜のように分裂して生まれ変わる細胞がある。前者は年月が経つにつれて少しずつ細胞は死んでいく。後者は分裂の時、いくつかの段階を経ながら同じタンパク質を受け継いでいくが、DNAは紫外線や放射線、ウイルス感染などで傷がつき、内部のラセン構造の一部がプツンと切れてしまうことがある。
若ければ酵素の力で修復されるが、年をとると次第に修復力が衰え、傷ついたところに本来つくべきものとは別のアミノ酸がくっついて、全く種類の違う細胞になる。
この異星人みたいな細胞は、その組織には必要ないものだからまもなく死んでしまう。その繰り返しで細胞が減っていく。
この考え方は有力であるが、老化のすべてを説明しているわけではない。ほかに、老化はあらかじめ遺伝子に組み込まれているという「プログラム説」、身体にいいはずの酸素も形が変わるとDNAを傷つけるという「活性酸素説」など様々ある。
早死家系、長寿家系があるように、老化に遺伝体質の要素の存在は否定できない。老化には、細胞の減少を中心に、様々な要素が複雑に絡み合っているものと思われる。老化や寿命を左右する要素は、遺伝体質が最も重要であるが、そのほかにも病気、栄養、なにごとにも積極的に立ち向かう活力(精神的活性)、さらに気候、大気汚染などの環境が影響していると思われる。もちろんアルコール、タバコ、ストレス、食べ過ぎなども老化の要因に含まれる。
結局は、どんな生活を続けるかということにかかっている。
老化の仕組みの本質は、年をとるにつれて細胞の数が減り、各臓器が軽く小さくなることである。
その結果、各臓器の働きはどんどん衰えていく。
表は30歳の臓器の働きを100とし、年をとるにつれてどのように衰えていくかを示した米国コロンビア大学教授ショック博士などの調査です。色々な感覚などを伝える神経の伝導速度は、80歳を過ぎてもまだ85ぐらいの能力を保っている。
しかし、腎臓の働きは80歳過ぎで45、呼吸によって酸素と二酸化炭素を交換する肺の働きは、70歳過ぎで42くらいしかない。この二つは5,60代を過ぎると、猛烈な勢いで落ち込んでいく。
老化を考える時に注意しなければならないことは、個人差や男女の差が大きいことである。実際の年齢が65歳であっても、体の各部分の働きは人によって、プラスマイナス20歳ぐらいの幅がある。45歳ぐらいの若さの人ともいれば、85歳くらいの衰えた人もいる。これだけ個人差に幅がみられるのも老年期の特徴である。
また、老年期の男女の差も無視できない。一般に女性は、男性に比べて老化が遅く長生きする傾向がある。年を取るほど病気にかかり易くなるのは、体のあちこちの働きが衰え、病気に対する抵抗力が低下し、回復力も弱まるためである。
なんとか、衰えを食い止められないものだろうか? これは私達の切なる願いです。老化、つまり身体の各部分の衰えは避けられなくても、刺激や学習効果たとえばリハビリによって進行を遅らせることはできる。
だから、老化防止には若いうちの成長期からの健康管理が大切である。幼い頃に身についた塩辛いものの好みは容易に直らないし、スナック菓子の多食もコレステロールを増やす。
青年期には体を鍛え、壮年期にはそれを維持し、いよいよ老年期には入ろうとする40歳以降は、老化防止の対策を講じていかなければなならない。要するに、老化が出てくる軽いうちから手当てすることが大切である。
老後をいかに健やかに過ごすかは、心の健康に大きく左右される。
心の健康とは、精神的な要素で、心と体の働きは切っても切り離せない関係にある。つまり、老後の衰えは身体だけではなくて精神的な心も同時に衰えていくものである。長年連れそった夫婦のどちらか一方が亡くなると、残された者は急に衰えてアツという間に後を追うように死んでしまうことがよくある。
これは今まで支えになってくれた人が急にいなくなって、心の支えがなくなったからに他ならない。これとは反対に支えがあれば老後は安定する。ある研究によると、「生きがい度」つまり生きる意欲や生活の満足感において、病気、寝たきり、配偶者に先立たれること、独り暮し、無趣味、クヨクヨ考えること、サークル活動なしなどは明らかにマイナスに作用する。
逆に、健康、配偶者の健在、子供や孫との同居、何事にも無頓着、サークル活動や奉仕活動への参加などはプラスの要因で、住宅が持ち家であること、年金に恵まれていることといった経済面もプラスに働く。
身体と生きがい(精神面)は老化を予防する二大要素であり、どちらか一方が欠けても健康な長生きは難しい。青春とは人生のある時期ではなく、心の持ち方である。ばら色のおもざし、しなやかな肢体ではなく、たくましい意思、豊かな想像力、もえる情熱、かぎりない夢を指す。年を重ねただけで人は老いない。理想を失うとき、目的を失うとき、生きがいを失うとき、はじめて人は老いる。
老いるということは、あらゆる生物の生きて行くうえでの自然的なりゆきである。早老になることや寿命を延ばすことはできるが、この自然の規律を変えることはできない。いつまでも青春であり続けることや、長生きして死なないということは不可能である。
早老や老化、寿命を延ばすには、どうしたらよいのだろうか?
現在、いろいろな学説があるが、漢方では老化は、免疫機能の減退と考えている。つまり、老衰の原因は、腎気─免疫─寿命という考え方である。漢方では、人の成長、壮老、死は、腎気と密接に関係していると考えられている。
昔の《素門》という本に次のように出ている。
「男子8歳にして、腎気充実し、髪は延び歯は生え変わる。16歳にして、腎気は旺盛になり、女の生理も来、精気は溢れ、陰陽は平衡を保たれるので、子供が出来る。24歳にして、腎気は平均を保ち、筋骨たくましくなり、成長の極みに達し・・・40歳にして、ようやく腎気は衰えだし、歯も抜けてき、48歳にして、陽気は次第に衰え、顔もくすんでき、白髪が交じるようになる。64歳にして、腎気は衰え、生理も止まり、精力も少なくなり、腎臓機能も衰え、身体も衰えてきて、歯も抜け落ちる。」
これは、腎気が人の成長、発育、老化の過程中、重要な働きをしていることを表している。
腎気が充実し旺盛であれば、人は生気溢れた青壮年の時期にあたり、腎気が衰虚すると、人は老化し、極端な場合は年に似ずよぼよぼの老態になってしまう。このように、老化の早い遅い、寿命の長短は、腎気の強弱に左右される。腎気が強ければ、老衰しにくいし、老化の速度も緩慢であり、寿命も長い。腎気が弱ければ、早老になり易いし、老化の速度も速く、寿命も短い。
それでは、腎気とはどんなもので、どんな作用をするものだろうか?
腎気とは、腎の中にあり、また先天の気、元気ともいう。元気は元陰、元陽すなわち腎陰、腎陽を包括し、生命を維持する原動力である。またこれは全身の陰陽を調節し、免疫機能を高める作用がある。
漢方でいう腎とは、現代医学でいう腎臓と比べて範囲が広く、種々の働きを行っている。
かいつまんでいうと、腎の働きは、人間の発育成長、生殖、水液の代謝、呼吸、骨、脳、腰、髪、聴覚などの多方面の関係があり、現代医学の内分泌の働きも持っている。
特に副腎との関係が深い。
腎の中には陰と陽の二つがあり、互いに助け合って成長発展を続けている。陰も陽も孤立して存在することは出来ない。陰がなければ、陽の存在もありえないし、陽がなければ、陰の存在もありえない。
いわゆる「孤陰は生ぜず、孤陽は長ぜず」、「陽は陰の根、陰は陽の根」というように対立した立場にありながら、互いに助け合って成長発展を続けている。
漢方では、「陽は陰を根本としており、陰がないとエネルギーを生じることが出来ない」、「陰は陽が統べており、陽がないと陰を運化してエネルギーに変えることが出来ない」。陰が陽に、陽が陰に変化する場合には、陰陽は互いに必要である。
ここでいう腎気とは、腎陽に属していて、目に見えない機能エネルギーのことで、必ず腎陰という目に見える血とか肉とかいう物質がないと、作用を発揮できない。腎気というエネルギーを発散させるためには、腎陰というものが必要である。腎陰という物質を作るためには、腎陽つまり腎気がなくてはならない。腎の力すなわち腎陰腎陽の力は、幼少から青年期にかけては発展期にあり、壮年期はその力を維持し、40歳を過ぎて老年期に向かうにつれ次第に減退の一途をたどる。
腎気の衰えとともに、老化が始まるのである。
腎特に腎陽はそのエネルギーをその他の臓腑に供給し、それらの臓腑の働きを助けている。人体中における腎陽の作用は極めて重要であり、他の臓腑のエネルギーの供給源である。また反面それらの臓腑から得られたものから、腎の中の腎陰が養われている。その中でも、老化を語る上では、肺、脾との関係が最も重要である。
肺は呼吸を通じて天空の気を取り入れ、また脾は食物を運化して得られた後天の気とともに、下降して腎陰に達し、腎陰を充養して、ひいては腎陽(腎気)を育みエネルギーを発揮させる。
つまり老化といえば、腎気の衰え → 免疫機能の衰え → 老化である。