ここでいう聾は鼓膜の損傷や聴覚神経損傷による難聴は含まない。
耳鳴は、耳内に蝉のような、潮のような、鐘のような音を感じることである。耳聾は、聴覚が減退し、甚だしい場合は消失する。耳鳴は耳聾を伴うことがあり、耳聾もまた耳鳴が悪化して起こることがある。
耳鳴、耳聾は現代医学では多くの疾患に見られるが、耳科では外耳の病変や鼓膜の病変や中耳の病変、内科では急性伝染病や中枢性の病変や薬物中毒、貧血、高血圧、メニエル病などがある。
耳鳴、耳聾の病因病機は腎虚が本であり、風、火、痰、淤が標である。
体虚腎虚損
生来の身体虚弱や病後の精血の衰えや減少、また情欲をほしいままにして腎精が傷耗するといずれも本病を起こす。それは腎は耳の外竅であり、脳に内通しているからである。腎は精を蔵して骨髄を主り、脳は髄海であるので腎精が充てば、髄海は滋養されて聴覚は正常に働く。腎精が損耗すれば髄海は空虚になり耳鳴、耳聾が起きる。
また身体虚弱で耳鳴、耳聾となるのは、過度の労働や病後の脾胃虚弱により、気血の生化の源が不足して耳に上奉できず、あるいは脾虚により陽気が振るわず、清気が昇らないことによるものである。
外邪の侵襲
風邪や風熱を感受し清竅を壅閉すると耳鳴、耳聾となる。また耳あかが耳を塞ぎ、更に風熱を感じても発病する。
外邪の侵襲は腎虚の原因によるのが一般的である。腎と膀胱は互いに表裏をなしているので、外邪が太陽経を侵襲すると腎に裏伝し、症状が腎の竅に現れると耳鳴、耳聾となる。また正気不足、気血虚損によって邪を感受した後、外へ駆邪できず邪が耳に停滞して耳鳴、耳聾となることもある。
肝火上擾
情志抑鬱し肝気が疏泄作用を失い、鬱して火と化し清竅が塞がれると、往々にして耳鳴、耳聾を起こす。足の少陽経脈は上って耳に入り、下って肝を絡り胆に属するので、肝胆の火が循経して上って耳を塞げば耳鳴、耳聾を生じる。
肝火の上擾はまた普通は腎虚によるもので、腎水の不足によって水は木を潤さなくなり、肝火が偏亢し、肝胆の経を循って上擾する。また腎水不足は相火の偏亢を起こし、上に妄動して耳鳴、耳聾となる。
痰濁が耳を阻む
もともと肥満体で厚味を多食し、痰濁が内盛して上の清竅を阻塞すると耳鳴、耳聾となる。あるいは素より湿熱があり、聚って痰となり、久鬱して火と化し、痰火が上昇して清竅を塞ぐ。
痰火によるものは二種類ある。一つは素より痰濁があり、更に悩怒によって損傷を受けた場合、もう一つは痰火が胃熱を兼有し、膏梁の食物の摂取により胃熱が上昇して痰火となったものである。
宗脈の淤阻
耳は宗脈の聚る所であり、経脈が淤阻して絡気が耳に通じないと、耳は経気の滋養を失って潤や聡(聴力)をなくし、耳鳴、耳聾を起こす。また血が耳道を淤阻しても起こる。
久聾、暴聾
久聾、暴聾の見分けは容易である。暴聾は耳聾が突然起こるもので、外感や痰熱に属するものが多い。
久聾は次第に聴力減退が起こり、または耳鳴から耳聾になるものが多く、多くは腎虚に属する。
突然起こるもの | 実証 |
緩やかに起こるもの | 虚証 |
頭痛発熱、耳内が痒いもの | 風 |
心煩易怒、耳鳴、耳聾がひどいもの | 火 |
肥満体、耳鳴重濁、塞がったよう、苔膩 | 痰 |
顔色どす黒く、耳聾閉塞、舌暗紫紅 | 淤 |
倦怠乏力、顔色白っぽい | 気虚 |
皮膚ガサガサ、口唇白 | 血虚 |
耳鳴、耳聾に腰膝酸軟を伴う | 腎 |
耳鳴、耳聾に脇痛を伴う | 肝 |
標本緩急
耳鳴、耳聾は腎が本であり、風、火、痰、淤が標であるが、臨床上は往々にして標と本が互見されることがある。
たとえば肝腎不足のときは肝火が偏亢し、顔面紅潮、心煩易怒また同時に腰膝酸軟などの症がある。
実際に患者を診るときは、肝火や痰火などの標症と同時に、肝虚、腎虚、肝腎両虚など本症も見極めなければならない。
一般に、耳鳴、耳聾が急に突然起こる場合は標症が主であり、緩やかに起こって長期間の場合は本虚が主である。久聾、久鳴で突然重くなる場合は多くは本虚標実である。