健康人は小便の出方は、スムーズで出た後はすっきりした一種の爽快感を覚える。小便の出の異常は、出過ぎた場合は多尿(たとえば糖尿病)、出が悪い場合は*りゅう閉<リュウヘイ>や淋などの病証となる。
*りゅうとは小便がチョロチョロと出て、量の少ないことで、閉とは全く出ないことで、一般に一緒にして*りゅう閉といい、小便の量が少なく、チョロチョロとしたたり落ち、ひどい時には全く出ないという一種の疾患である。
淋とは小便を頻りにもよおし、こらえきれず、量が少なく、タラタラと尽きず、尿道が渋痛し、下腹部が拘急するのが特徴である。
*りゅう閉と淋の違いは、*りゅう閉は排尿困難、小便量少、ひどいときには出ないという特徴があり、小便量少、排尿困難は淋と似ているが、淋では疼痛し、尿頻の症状が特徴であり、一日の排尿の総量は正常で、*りゅう閉では尿頻、疼痛はなく、一日の排尿の総量は正常より少ない。
*りゅう閉は現代医学の尿の貯留と無尿症を包括し、たとえば神経性尿閉、膀胱括約筋痙攣、尿路結石、尿路腫瘍、尿道狭窄、老人性前立腺肥大、脊髄炎、尿毒症などによる尿の貯留と無尿症である。
淋は現代医学では泌尿器系統の疾患に主として現れ、臨床上はすべて尿路の刺激症状があり、たとえば腎孟腎炎、膀胱炎、腎結核、泌尿器結石、膀胱癌、乳糜尿などがある。
次に小便に関しての現代医学と漢方の考え方について述べる。
先ず第一に述べておかなければならないことは、腎は尿を出すために機能しているのではなく、腎の仕事の結果その所産として尿を排出しているのである。
腎臓の生理機能は、生体の生命保持に本質的に必要な老廃物の排泄、水と電解質の調整、浸透圧の調整、酸塩基平衡の維持である。生体は腎のこれらの機能によって、常に産生される老廃物を清掃し、一定の内部環境の恒常性(ホメオタシス)を維持することができる。腎はこれらの機能を次の三つのしくみを介して遂行する。
このようにして腎は尿を生成、分泌するという生理的過程の中で諸々の機能を遂行しているのであって、尿はいわばその仕事の遂行にあたって生じた結果の産物というべきのものである。
腎の仕事は、糸球体においてここを通る血液の中から、血球成分やタンパク分子などの高分子を除く全成分を血管外に濾過する作用から始まる。すなわち糸球体に流れ込んだ血液は、その中の大分子を除いた全部が一度血管の外に濾過されて出てしまうと考えてよい。
腎には心拍出量の約1/4、血液量にして1分間に1.2〜1.3リットルもの大量の血液が供給される。この小さな臓器に心拍量の20〜25%もの血液が送られる。この豊富な血液量こそが、腎の膨大な仕事の源泉となる。
要するに腎は、豊富な血液量と各所における浸透圧の調整によってホメオタシスを維持し健全な機能を営むことができ、結果として尿の排出が行われる。乏尿、無尿また多尿などの各種尿の異常は、すべて腎機能の失調にほかならない。
次の項をもう一度おさらいして下さい。
正常人の小便の出具合は、三焦の気化作用の健全な機能に頼っているが、その三焦の気化作用の根本は、腎に蔵する精気が源である。
腎は水液を主り、二便(大・小便)を司り、膀胱と表裏の関係にある。腎は水液を主るとは、体内の水液を調節し平衡に保つという極めて重要な作用を指す。体内の水液の分布、排泄は、主に腎の気化作用に頼っており、腎の気化作用が正常であれば腎の開閉も節度ある状態になる。
生理的に見れば、水液は胃の受納、脾の運化、肺の粛降を経て、その後下って腎に達し、更に腎の気化作用によって水谷の精微は上にあがり、肺に至って全身に広く輸布され、小便は下って膀胱に運ばれ、体外に排出される。
このような作用によって人体の水液の代謝は平衡に維持されている。今もし腎の気化機能が失調すれば、関門の開閉作用が順調にいかず、尿の排出異常が起こる。
またこのほか、肺の粛降の失調、脾の運化転輸の失調は、昇降作用がうまく行かず、肝が疏泄を失すると気は鬱して流れが悪くなり、淤濁が内停し、気化が阻まれる等々、三焦の気化に影響を及ぼして尿の排出の異常が起こる。
清・唐容川著《血證論・陰陽水火気血論》の冒頭に次のような文が出ている。
「人の一身は陰陽に外ならず、陰陽の二字は水火であり、水火の二字は気血である。水は気に化し(変化する)、火は血に化す。」
水は気に化すというのはどういうことだろうか?
気は物に著<ツ>いてまたかえって水となる。これは明らかなことである。人身の気は臍下丹田の気海の中に生ずる。臍下は腎と膀胱であり、水の宿る所である。ここの水は自分自身で気と化すことはできない。鼻口から天陽の気を吸い入れて、肺で心火を引いて、天陽と心火が一緒になって下って臍下に入り、その水を蒸化してはじめて気に化すことができる。
易でいう坎の二つの陰にはさまれた一つの陽みたいなものである。一陽は水中に生じ、気の生ずる根本つまりたね火になる。気が生じると太陽経脈を通って、広く外を守り、衛気となる。気は肺に上交し、呼吸を司る。五臓六腑の機能の相互連係は、みな気によって維持されている。
それ故、一度気化機能が停止すると気の働きも止む。然るに気は水を生じ、よく水を化し、水は気を化す。また水は気の病を起こす。気の至る所、水の至らざる所なし。故に太陽の気、皮毛に達すれば汗となる。気、水陰を挟んで外に行れば、太陽の気は肺に上輸され、膀胱腎中の水陰は、気に随って昇騰(昇る)し津液となる。気が水陰を載せて上に行れば、気はまた下に化して水道を通じて溺(小便)を生ずる。気が行れば水もまた行る。
もし水が停留して外を化すことができなくなると、太陽の気もすみずみまで達することができなくなって、汗が出なくなる。
内では津液が生じなくなり、痰飲交結する。これは水が病になって、気の病を起こしたものである。気が病になるとまた肺の機能が順調にいかなくなり、肺の粛降作用がスムーズにいかず、気は下に降りていくことができず、その結果*りゅう閉や頻尿が起こる。更に腎中の陽気は水を制御できず、あふれて飲や瀉(下痢)となる。気が病すれば水が病することは大変多い。
結論的に言えば、気と水は元来一家に属するものである。気を治すには水を治せ。水を治すには気を治せ・・・」。
*りゅう閉には次のような病因がある。
湿熱内鬱
中焦の湿熱が解さず、膀胱に下注したり、腎熱が膀胱に移入して膀胱の湿熱が阻滞したりすると、気化がうまくいかず、小便が通じなくなって*りゅう閉となる。《諸病源候論・小便病諸候》に「小便が通じないのは、膀胱と腎に熱があるからである」とある。
肺熱気塞
肺は水の上源であるから、熱が肺を塞ぐと肺気は粛降できず、津液の輸布に異常をきたして水道の通調が不利し、膀胱に下輸できなくなる。また熱気が過盛し膀胱に下移すれば、上・下焦共に熱気に阻まれて*りゅう閉となる。
脾気不昇
労倦になって脾が損傷したり、暴飲暴食や久病により身体が虚弱になると、脾虚して清気は上昇できず、濁陰は下降困難となり、このため小便は不利する。《霊枢・口問》に「中気不足すれば、溲便(小便)はこれがために変ず」とある。
腎虚
老人や久病で身体が弱り、腎陽が不足して命門の火が衰え、いわゆる「陽なければ陰を生ぜず」となり、膀胱の気化の力が衰えて小便の排出ができなくなる。また下焦に積熱して長期間癒えないと、津液が損耗して腎陰が不足し、いわゆる「陰なければ陽を化せず」となり、これも*りゅう閉を起こす原因となる。
肝気鬱滞
七情による内傷は肝気鬱結を起こし疏泄できなくなり、三焦の水液の運行と気化機能に影響を与え、水道の通調が阻まれ*りゅう閉となる。かつ経脈の分布から見ると、肝経は陰器をめぐって下腹部に至るので、経気が阻滞すれば膀胱の気化に影響し、また*りゅう閉となる。
尿路阻塞
淤血や腫塊、結石が尿路を阻塞しても、小便の排出が困難になって*りゅう閉となる。
以上を総合すると、*りゅう閉の病位は膀胱にあるが、三焦と肺、脾、腎とも密接な関係がある。
上焦の気が化さないのは肺の責任であり、肺がその機能を失えば、水道を通調して膀胱に下輸することができなくなる。
中焦の気が化さないのは脾の責任であり、脾土が虚弱であれば清を昇らせ濁を降らせることができなくなる。
腎陽が虚損すれば気は水を化すことができず、腎陰が不足すれば陰は陽を化すことができず、これもまた*りゅう閉となる。
このほか、色々の原因による尿路阻塞でも*りゅう閉を起こす原因となる。その中で、一般に湿熱内鬱、肺熱気塞、肝気鬱滞、尿路阻塞は実証、脾気不昇、腎虚は虚証に属することが多い。
小便点滴不通、量少短赤灼熱、下腹部脹満、口苦口粘 | 膀胱湿熱 | 実証 |
小便点滴不爽、咽乾、煩渇 | 壅盛肺熱 裏熱内鬱 | 実証 |
小便不通 情志抑鬱、脇腹脹満 | 肝気鬱滞 疏泄失調 | 実証 |
小便点滴、下腹部脹痛 | 尿道血淤阻塞 | 実証 |
下腹部墜脹、小便量少か出ない、疲労、食欲不振 | 中気下陥 清気不昇濁陰不降、脾気虚弱、運化無力 | 虚証 |
小便不通、点滴不爽、排出無力、腰膝酸軟、畏寒 | 腎陽虚 命門火衰 | 虚証 |
小便出ない、咽乾心煩、手足ほてる | 腎陰虚 陰虚で陽を化すことできず、陰虚内熱 | 虚証 |
淋証には次のような病因がある。
膀胱の湿熱
湿熱は外から受けることが多いが、また内からも生じる。外から感受するものは外陰部が不潔なため穢濁の邪が上って膀胱を犯したり、また他の臓腑から膀胱に伝入することによる。後者の場合は、小腸の邪熱や心経の火熱の熾盛が腑に伝わり、膀胱に移入し、あるいは下肢にできた丹毒が脈絡を塞ぎ、膀胱に波及することによる。
内生のものは、多くは栄養価の高い物、甘い物、酒、熱い物の過食によって、脾胃の運化に異常をきたし、湿が積って熱を生じ、湿熱が膀胱に流入することによる。膀胱は津液を貯蔵する所であり、水は気化してはじめて排出できる。湿熱の邪気が膀胱に薀結して気化作用が失調し水道が不利になれば遂には淋証を発する。
湿熱の毒邪(細菌)が膀胱に入ると、小便は灼熱して刺痛する。つまり熱淋である。
膀胱の熱が盛んであれば、熱は陰絡を傷り、血は妄行し、尿は血に随って出る。つまり血淋(血尿)である。
湿熱が久しく薀すれば、水液を煎熬(煮つめる)し、尿は凝結し、年月を経ると聚って砂石となる。つまり石淋(結石)である。
湿熱が稽留すれば経絡を阻滞し、脂液は常道を通らず膀胱に滲出し、尿に混じる。つまり膏淋(乳糜尿)である。
このように熱淋、血淋、石淋、膏淋は膀胱の湿熱によって発生することが多い。
肝気鬱滞、血淤
鬱怒して肝を損傷すると、肝気は疏泄を失調し、長くなると血は流行が妨げられ、脈絡は淤阻する。または気が鬱して火と化し、気と火が下焦に鬱した結果、膀胱の気化が失調して淋となる。
臨床上、淋証は常に軽重の違いはあるが気血の不暢の症状を伴う。臍下満悶などの気滞症状を主とするものは気淋である。
腎気虚損
腎と膀胱は互いに表裏をなしており、その間は経脈で連なり、水道は相通じており、互いの関係は密接である。もし先天的奇形や先天不足で腎気が虚弱であったり、房労、多産、導尿、砂石の積聚により、腎気を損傷し、また老年、妊娠、産後により腎気が衰えると、いずれも外邪が膀胱へ侵襲し易くなり淋となる。
淋証が一旦発生すると、膀胱の湿熱の邪気は上って腎を犯し、あるいは長期間罹患して癒えないと腎気を損傷し、二者は相互に影響し合って病状は長びき治りにくくなる。このように、腎虚と膀胱の湿熱は、淋証発病の原因の中で重要な位置を占めている。
房事によって淋となるものは労淋といっている。また淋証が長びきあるいは熱毒が盛んになって、心気や心陰に損傷が及び、上は虚火、下は腎陽の虚損になって心腎不交を起こし、水火が互いに済けることができず、腎が固渋し労淋となる。これを「上盛下虚」の証という。
以上を総合すると、淋証の病因は湿熱が主であり、病位は腎と膀胱である。初期は邪実の証が多く、長くなると実より虚に転じる。邪気が未だ尽きず正気がすでに破れたものは、虚実挟雑の証候である。
小便頻数、点滴尿黄、灼熱刺痛、急迫不爽、腹痛 or 腰痛 | 熱淋 湿熱毒邪、気化失調、水道不利 | 実証 |
血尿、尿頻短急、灼熱痛、臍腹痛、舌尖光 | 血淋 熱、陰を損傷、膀胱に侵入、熱淋のひどいもの、心と小腸に関係あり | 実証 |
血尿、尿色淡紅、尿痛渋滞、腰膝酸軟 | 腎陰不足 虚火亢盛、陰を損傷、膀胱に侵入 | 虚証 |
小便渋滞、点滴不尽、臍腹満悶 or 脹痛 | 気淋 肝脈は陰器に絡む、肝鬱気滞、気火下焦に鬱す | 実証 |
尿頻、色淡、渋滞不尽、下腹部墜脹痛、喜按 | 久淋 中気傷耗、脾虚気陥 | 虚証 |
尿中に砂石が混じる、小便渋滞、尿排出できず、下腹部から腰部にかけて絞痛 | 石淋 湿熱下注、化火灼陰、尿液長期煮つまって砂石となる、水道塞いで石淋となる | 実証 |
病久、砂石去らず、下腹部痛、手足ほてる | 虚には気虚、陰虚、腎気不足あり | 虚実挟雑証 |
小便混濁(乳糜尿)、すっきり出ない、灼熱疼痛 | 膏淋 下焦湿熱、絡脈を阻む、清濁分離不能 | 実証 |
病久、反復発症、渋痛ひどい、身体消痩、腰膝酸軟 | 腎気受損 下元不固、清濁分離不能 | 虚証 |
病久、時軽時重、労働後ひどい、尿赤渋や痛あまりひどくない、点滴して不尽 | 労淋 邪気傷正、正気損傷、腎、心、脾の区別あり | 虚証 |