体液の生理的構成は静的なものでなく、常に流動しながら恒常性を保っている。水分の面からみた体液の動きをみてみる。表は健康な大人の水分の動きを示したものである。
摂取水分量(ml/日) | 排泄水分量(ml/日) | ||
飲料水 食物中の水分 代謝水 |
1500 750 350 |
尿 |
1500 100 400 200 400 |
計 | 2600 | 計 | 2600 |
これでみると健康人ではおよそ尿として失った水分を飲料水としてとっていることになる。不感蒸発量とは、人為的にどうしようもない水分の喪失量で、それはとりわけ環境の温度、湿度に影響される。夏は発汗量が増すので、それだけ尿量は減る。ここで大切なことは、人体の水分調節は主に尿量の変化でまかなわれることである。汗は二次的な水分調節の法であり、それは大した量ではない。寒くなると汗腺は密閉されて汗は減り、尿量は増加する。
外的環境変化による外気温の大きな変化にもかかわらず、体温が一定の幅に保たれるのは、人体では体温調節中枢によって体内における温度産生と、体表からの温度放散のバランスを一定に保つようにコントロールされているからである。
外気温が上がると、皮膚温、脳温は上昇をきたし、この刺激を受けた視床下部は、温熱の産生を抑制し、放熱を促進する生理現象を指令する。このため、皮膚の毛細管は拡張し、皮膚の血流は増し、発汗を促進し、蒸発による気化熱の消失をはかる。
逆に外温の下降は、冷受容器を刺激し、視床下部の温熱産生のしくみを興奮させる。このため皮膚の血管は収縮し、立毛筋、骨格筋が緊張して温熱の産生が亢まる。
発熱とは、正常の体温調節のしくみが失われて、温度の調節が高いレベルにセットされた状態と表現できる。39℃の発熱ということは、39℃に体温が保たれるように温熱の産生と放散のバランスが保たれた状態をいうことである。
体温調節のレベルが突然40℃近くに上げられると、人体の温度感受容器は、体温37℃でも38℃でも39℃でも低温度と認識する。このために、外気温に対して激しい冷感を感じる。これが悪寒であり、これに対応すべく皮膚の毛細血管、毛髪筋が収縮して、いわゆる鳥肌、立毛、細い筋肉のひきつけ、けいれんを起こし、更にひどい時には大きな筋肉のけいれんによるガタガタふるえ-戦慄-をきたす。これが突然の発熱に伴う悪寒戦慄という生体反応である。
体温調節レベルが36.5℃の正常値に回復しても、体温はまだ40℃の高い温度を保つので、この温度調節レベルでは、著しく温熱が余剰となり、一斉に放熱のしくみが強化される。このため皮膚の血管は拡張し、顔面は紅潮し、同時に大汗をかいて一挙に温熱の放散にかかる。
要するに、発熱と発汗とは現代医学的に考えると、視床下部にある体温調節中枢の調節機能に狂いを生じ、正常時の体温以上のレベルに体温を維持するようになった状態が原因である。
汗証は人体の陰陽失調、営衛不和、皮膚の固密作用の弛緩、汗腺の開閉不調などによって、汗が外泄する病証である。汗の出かたによって、一般に下のように分けられる。
自汗 | 昼間起きている時だまっていても汗ばむ |
盗汗 | ねあせ |
戦汗 | 発熱患者に見られ、人体の正気と病邪が闘争して、その結果邪が外に追い出される時、全身が戦慄し汗が出る |
黄汗 | 風、水、湿、熱が内部に交蒸して、黄色っぽい汗が出る腋汗は多くは肝胆湿熱 |
絶汗 | 病状の危険な証候。 陽気が脱せんとし、油汗が玉のように流れ出て、呼吸促迫、四肢厥冷し、脈が絶えんとする危篤の証候。 ショック、心不全などに見られる。 |
営は陰、衛は陽で正常な健康の時は均衡した力関係が二者協調して人体を守っている。陽は外で働き、陰は内で人体を守っている。風邪が表を襲うと衛陽は奮い立って外邪に激しく抵抗し、発熱を起こす。これは衛陽が強力な場合である。
営衛が弱い場合は、正常に外邪に抵抗し、外を死守することができず、だらしなく内に入り込ませ、貯めておいた陰液を内にしっかりと確保できず、汗として出してしまう。この場合は発熱は起こらない。
すなわち、いずれの場合も衛陽と営陰が協調作用を失した状態である。根本的には陰陽の失調に他ならない。
外感 |
表虚 表実 邪熱裏に入る 表証解ける |
自汗 | 多くは陽虚または気虚。血虚、湿痰もあり |
盗汗 | 多くは陰虚または血虚。気虚もあり |
大汗(汗出の多いもの) | 陽明の熱または発汗薬の過服 |
冷汗自出 | 陽気衰 |
熱汗 | 陽気亢盛 |
玉のように冷汗が流れ出て、粘っこく油のようなもの、乏力を伴う | 大汗亡陽 |
半身出汗 | 半身不随 |
額汗 | 陽虚気脱(胃熱、湿熱上蒸を除く) |
手足多汗 | 脾胃(湿熱、気虚、陰虚)、血虚 |
戦汗 | 熱病で正邪抗争し、抵抗力強く、正が邪に勝った場合に起こる |