気の概念
人体の気は、いろいろあるが、基本になるものは元気(原気、真気ともいわれる)である。元気とは、父母から受け継いだ生まれながらの先天の気、食べたものが吸収され運化されてできる水谷<スイコク>の気、口鼻より吸入される自然界の空気を総合していう。
気は、全身に流れていて、すべての生命活動の原動力となっており、また先頭にたって他の物を引っ張って行く先駆としての役目を果している。
気の作用
《難経・八難》に「気は、人の根本なり」とある。気は全身に流行分布しており、その作用には五つの働きがある。
推動作用 | 人体の生長発育、各臓腑、経絡の生理活動、血液の循環、津液の輸布など、みな気の推動運行に頼っている。気の推動作用が減退すると、生長発育の遅れ、臓腑、経絡の生理機能の衰え、血液循環の停滞、水液代謝の低下などが起こって、病理現象が発生する。 |
温める作用 | 人体の正常な体温調節、各臓腑器官などすべての生理活動のエネルギーは、気の温める作用によるものである。この温める作用が不足すると、寒がりや手足が冷たいなどの証が現れる。反対に温める作用が昂盛すると発熱やいらいらなどの証が現れる。 |
防御作用 | 気は、体表つまり皮膚を保護して外邪六淫の侵入を防止している。外邪が侵入すると外邪と争って外邪を駆逐する。すなわち外邪と相い対待している面からすれば「正気」に属する。またその作用は陽の働きとも似ていることから、「陽気」ともいわれている。 《素問・評熱論》に「邪の湊<アツマ>る所、その気必ず虚す」とある。 |
固摂作用 | 気の固摂作用とは、血液の流れを制御して血管の外に溢出しないようにし、汗や尿の分泌や津液の流出を正常に保ち、また精液の出を適度に制御して滑精を起こさないようにするなどである。気の推動と固摂作用は相い反するもののようだが、うまくかみ合って統一的に作用している。一方では血液の循環をよくし、また片一方では血液の流れを統摂して、正常に循環するようにしている。 もし気虚になって血液の推動作用が減退すれば、血液の循環が不利になり、淤血が生ずるようになる。また固摂作用が減退すると、血液は血管外に溢れて出血を起こす。 |
気化作用 | 気化とは、気の運動、変化、転化のことで、人体の生長発育の源動力である。たとえば、血液の循環、津液の輸布、食物の消化、営養の吸収、糟粕<ソウハク>(かす、大小便)の排泄、皮膚の温度調節、髪の毛の光沢、各臓腑の機能調節などは、みな気化によるもので、休みなく気化作用を続けて生命を維持している。気の作用の中でも、最も重要な働きということができる。 |
気の分類
人体の気の分布や来源、機能の特徴は異なっており、その名称も違った呼び方をしている。
元気 | 父母の血を受け継いだ先天の気のことであり、原気、真気、生気ともいわれている。生命活動の源動力で、人体の気の中で最も重要なものである。元気が充実すれば、臓腑の機能は旺盛になり、人体は益々健康になっていく。 これに反して先天の気が不足すると、疾病が長引き元気を損傷して、それにつれて臓腑の機能も衰え、抗邪力も弱くなり、つぎつぎと色んな病を発生するようになる。疾病治療の根本原則は元気の補給にほかならない。 |
宗気 | 肺によって吸入された自然の大気と、脾胃によって運化吸収された飲食物の営養分の気とが一緒になって、胸中に集った気を宗気という。宗気の作用には二つある。 一つは、のどを通って呼吸を行い、言葉や声、呼吸の強弱と関係がある。 もう一つは、心臓の鼓動を推進調節し、気血の運行、身体の温涼や活動に関係がある。 |
営気 | 営気とは、血液と共に血管内をめぐって全身を営養している。このような場合、営養物質が生成される過程において、気が関って血となり肉となる営養物質が作られる。 また生成された営養物質は、気の働きによって血液に吸収された後、全身、五臓六腑の組織に営養を行きわたらせる。つまり営気とは、血液になる前の状態のものを血液に転化させ、そして血管の中をめぐらせて、全身を営養しているものである。 |
衛気<エキ> | 衛気は、営気と同じように食べた飲食物の中の営養分によって作られ、営気の血管内をめぐるのと異なり、血管外を全身にわたってめぐっている。その運行は速く力強く、皮下脂肪や筋肉を温め、皮毛を充実柔潤させ、汗腺の開閉を調節し、外邪の侵入を防御している。外邪が侵襲する場合の第一障壁であり、外邪は先ずはじめに衛気の抵抗にあう。 |
臓腑の気 | 五臓六腑に分布している気であり、各臓腑の生理機能を推進している。 |
※詳細は各臓腑の項で後述する。
気虚 | 全身あるいはある臓腑機能の衰退の証候。 主証:めまい、気力や元気がない、消化不良、自汗(じっとり汗をかく)、汗症、活動した後それらがひどくなる、舌淡(赤味がうすく淡い色)。 |
気陥 | 気虚の一種で、気力が無く、上に挙げる力がなく下垂した証候。 主証:めまい、息切れ、腹部下墜感、脱肛、子宮下垂、舌淡苔白。現代医学の胃下垂、腎下垂、子宮脱垂、脱肛などに相当する。 |
気滞(気鬱) | 人体のある部分やある臓腑の気が阻滞し、運行が不利になった証候。 主証:つまって脹ったような感じで痛みがある。気滞は各臓腑に生じる。たとえば肝気鬱結が代表的証候で、いらいら、怒りっぽい、胸脇脹痛、乳房脹痛、下腹部の脹痛など。 |
気逆 | 気の昇降機能の異常で、気の上逆の証候。 主証:咳喘、しゃっくり、吐き気、嘔吐、頭痛、めまい、吐血など。 |
血の概念
血は、現代医学の血液と似た概念で、摂った飲食物の営養物質から作られ、営気の作用により血管の中を全身にわたって循環しているものである。
血の作用
血の主な機能は、皮毛、筋骨、経絡、臓腑などすべての組織器官に血液を送り、全身を潤養して正常な活動を行っている。
《素問・五臓生成》に「肝は血を受けてよく視 <ミ>、足は血を受けてよく歩き、掌は血を受けてよく握り、指は血を受けてよく摂<ト>る」とある。
血虚 | 血虚とは、体内の血液の不足、ある部分の血液循環機能の減退によって起こる病理変化である。主な原因としては、失血過多や生血不足によって起こる。たとえば食物中の営養物質の吸収ができなくて、それが血液となることができないことや、淤血が生じてそのために新しく血液を作ることができないなどである。 主証:顔色が蒼白く、めまい、動悸、舌唇の色が淡く、不眠、視力減退、四肢のしびれやつっぱり、閉経など。 |
血淤 | 血液の流れが滞って血管の局部や臓腑の中に停滞した証候。 このほか、外部打撲や内出血によっても起こる。 主証:淤血局部の刺痛、痛所は固定して移らず、腹内に塊、舌唇は紫暗色、経血は黒い、発狂などの精神異常。 |
血熱 | 血分に熱があるか熱毒が血分に侵入した証。 主証:身体熱、口乾、いらいら、不安、各種出血、舌深紅色。 |
出血 | いわゆる出血のこと。原因は色々ある。 主証:血熱出血、気虚出血、血淤出血、外傷出血。 |
津液の概念
津と液は、習慣上人体の分泌物を包括して一般に津液と呼んでいる。たとえば唾液、胃液、腸液、関節腔内の液体、なみだ、鼻水、汗、尿などで平たくいえば人体内外の水分である。
津と液は陰に属し、飲食中の営養物質が化生してできたものである。しいて分ければ、津は体液中の比較的希薄な部分で、衛気と一緒に全身に拡散している。また液は体液中の比較的濃い部分で、全身の組織中をめぐっている。
津液の作用
津液の作用は大きく分けて二つある。
組織器官の営養と潤滑
皮膚のうるおいとつや、肉体の豊満、関節の潤滑などは、いずれも津液の営養と潤滑作用によるものである。丁度、機械の潤滑油のような役目を果している。津液は、鼻水、なみだ、つば、よだれ、汗などに化生し、鼻や眼、口腔粘膜を保護している。また、脳髄、骨髄も津液の潤沢作用によって営養を得ている。
体液の平衡の維持
津液は体内の状況や外界環境の変化に応じて体液を調節して平衡を保っている。天気が暑い時には汗を多く出し尿は少なくなり、寒い時には尿は多く汗は少ないというようにして、体液の平衡を保っている。
もし津液の機能が減退して人体内外の変化について行かなくなったら、体液の過度の消耗や過分の貯留が起こり、体液の還流障害や排泄異常をひき起こし、浮腫や痰飲が発生する。ひどい嘔吐や下痢、大汗、高熱は体液の消耗をひき起こす。
津液の病証
津液不足
人体を正常に需要する津液が不足することで、傷津ともいう。主として口渇、咽乾、唇燥、舌乾少津、皮膚乾燥、下肢軟弱、小便少、大便乾結などがみられる。
高熱によってひき起こされるものは、発熱、いらいら、口渇、舌紅、苔黄などの症状がある。気虚を兼ねている場合、つまり気陰両傷では息切れ、疲労、舌淡歯痕<シコン>(歯がた)、少苔などがみられる。このような津液不足は糖尿病によくみられる。
水液内停
臓腑機能の失調によって津液の代謝、輸布、排泄に異常をきたし、水液が体内に停留して発病する。水液の停留部位によって大体二つに分けられる。我が国は多湿なのでこの疾病が多くみられる。
痰飲(狭義) | 胃腸に水滞したものを指す。胃に水滞したものは、動悸、息切れ、めまい、胸脇のはり、背中の冷感、胃中の水声などがみられる。腸の水滞では、頭のふらつき、よくつばをはき、下腹部の拘急<コウキュウ>(つっぱり)、臍下の動悸、小便不利などがある。 |
支飲 | 胸膈に水飲が停留したもの。咳、呼吸困難、痰多く薄く泡状、浮腫(主に顔面)、病程長い、寒さにあうと発作、舌淡。これは現代医学の急・慢性気管支炎、肺気腫などに相当する。 |
懸飲 | 痰飲の邪が胸肋に停留したもの。胸肋痛、咳喘痰多、胸肋脹満、呼吸促迫、舌苔薄白。一般に痰飲より症状が重い。現代医学の胸膜炎などに相当し、結核性が多い。 |
溢飲 | 四肢の停水である。身体重痛、四肢浮腫、悪寒無汗、口渇なし、苔白。現代医学の急・慢性糸球体腎炎、心不全、浮腫などに相当する。 |
精の概念
精とは、先天の気と後天の気(生まれた後、飲食物の摂取によって吸収された営養物から化生した気)が一緒になって作り出された生命の源泉となるものである。精を理解する上では、広義と狭義の精に分けて考える。
狭義の精は、男女二人の結合によって新しい個体が生まれるという、いわゆる生殖の精である。
広義の精とは、食物の営養物質が化生したもので、生命の活動維持にかかせないものである。
先天の精 | 父母の生殖結合によって生まれた先天的体質のことである。これの強弱は生まれた後の成長発育を左右する。 |
後天の精 | 摂った食物の営養物質が化生して出来たもので、生まれた後の成長発育や生命の維持を継続する上で重要なものである。精が充足していれば、成長発育は正常で、生命活動も旺盛で健康である。これに反して精が不足しておれば、発育は遅れ、痩せて体質は虚弱で、病にかかり易い。 先天の精と後天の精は、相互に依存し、相互に補充し合っている。生命が生まれる最初の活動の基になる先天の精のよしあしは、生まれて後からの後天の精を作る条件になる。つまり先天の精の力が充実していないと、生まれた後の後天の精の充実はあり得ない。いわゆる「先天は後天を養い、後天は先天を養う」である。 |
精の病証
精が亢盛するということはない。つまり精病の実証はあり得ない。精の場合はすべて虚証である。したがって精の作用は、生殖の精不足の性機能減退と発育の異常、また臓腑の精(後天的精)の不足による臓腑機能の低下が考えられる。後天の精は陰に属し、実際には血、津液も含んでいるので、陰虚、血虚、津液不足などの証候が出現する。
気はよく血を生じる | 血液は陽気に依存して、飲食物の営養分の吸収によって生成されている。陽気が盛んであれば血液生成の力は強く、陽気が衰えると血液生成の力も弱くなる。したがって気虚ではよく血虚を起こし、ついには気血両虚になっていく。 |
気行<メグ>れば血行る | 血液は気の推進力に頼って全身を循環している。気の機能が失調すると血の循環が不利となり、気虚や気滞を起こし、ひどい場合は血淤が出現することとなる。すなわち「気滞血淤」である。 |
気はよく血を摂す | 気は、血が血管内を循環して血管外に溢出しないように統轄している。もし気虚になると、その血を統制できなくなって出血を起こす。 |
血は気の母である
血は気の母であるという意味には二つある。
一つは、気は必ず血(津液や精も含む)をたよりとしてつき従っている。気が血につき従わないと、フワフワとあてどもなくさまよい、迷子になってしまう。気は血の背中に載っかったような恰好で、血管の中を流れている。気は、血管の外に出ると血から津液に乗り換えて、自分も衛気へと変身し体表をめぐる。
二つ目は、気は、飲食物を吸収して得た血や津液の補充によってその力を充実させており、血や津液は気の機能の充実と維持の源泉である。
このような二点からしても分かるように、血は気の母ということができる。気は、血や津液あるいは精を離れて単独で存在することはできない。大出血の時、気は血に随って脱し、大汗の時は気は津液に随って脱する。
気血同病
気と血の関係は、今まで述べてきたように密接で相互に依存し合っているので、病理上は常に気血同病が起こり易い。
気は血に対して、温める、化生する、推動する、統摂するという作用がある。気虚になると化生の力が衰えて血虚を起こし、気寒では温める作用がなくなって血滞になり、気衰になると推動作用が衰えて血淤を起こし、気陥になると統摂作用が衰えて出血が起こる。
また血は気に対して潤養し、載せて運行する作用がある。血虚になると十分に気を載せることがでなくなり、気もこれにつれて少なくなる。気が血の潤養を失えば燥熱を生じ易い。血脱の証では、気はつき従っていく血を失って、気脱の証があらわれる。
気滞血淤 | 気が滞って行らなくなると血の運行ができなくななり、血淤が出現する。いらいら、胸脇脹痛、乳房脹痛、下腹部淤塊、痛経、閉経、舌紫暗紅などの証がみられる。 |
気血両虚 | 気虚と血虚が併存する証である。息切れ、身体倦怠、自汗、顔面青白いかくすんだ黄色、動悸、不眠などの証がある。 |
気虚出血 | 気虚になって気が血を統摂することができなくなって出血する。血尿、機能性子宮出血、痔出血など。 |
気随血脱 | 大出血時、気が出血に随って脱するという重症である。 |
気は無形で陽に属し、津液は有形で陰に属している。両者はその性質、形態、機能は基本的に異なっているが、その反面密接な関係があり、その生成、輸布の面で、共同して作業を行っている。
気は水を化し、水が停滞すると気の運行を阻む
津液の生成、輸布、排泄はみな気の働きに依存しており、気の働きによってはじめて水を化すことができる。たとえば、気化作用が失調すれば、水液は停滞して痰飲や水腫となる。また腎気の不足や膀胱の気化がよく行われないと、小便の出が悪くなったり、全く出ない症状が起こる。更にまた気が滞って行らないと、体液もよく行らなくなり尿の貯留や腫脹が起こる。
また一方、津液の代謝や輸布が失調すると、水滞あるいは痰飲が発生し、そのために気の流通が阻まれて気の機能の阻滞が生じるようになる。
気はよく津液を生じ、津液を固摂する。津液が脱すればそれにつれて気も脱する
津液は飲食物の営養分の化生から生じている。胃腸の気の働きが旺盛であれば、正常に運行し、津液も充足している。これに反して営養分の吸収が十分でないと、気の機能は衰えて無力になり、津液の生成に影響して不足を生ずる。また気は、津液の排泄を制御するという固摂作用がある。気虚になって固摂作用が衰えると、多汗や多尿、遺尿などの津液流出という病理的現象が発生する。
また一方では、気は津液につき添って存在している。気が津液を離れて寄り添う所がなく、フワフワと中に浮いた状態になると、気は次第に損耗してしまう。臨床上では、発汗が適当でないために大汗が流れ出て、また大量の嘔吐、下痢などで津液が失われるばかりでなく、気もまたこれに随って損傷を受け、津液が脱するにつれて気も脱するという重症に陥る。
津液は血液組成の一部分である。津液中の一部分が血管内に入って、変化して血液を作っている。津液の多少は血液の量の多少と相互に影響し合っている。たとえば大出血の時、口渇、皮膚乾燥、尿少などの津液不足の症候が現われる。津液が傷耗されると血液の生成不足を起こす。つまり津液が枯れて血燥が生じる。
気、血、津液、精のそれぞれの関係は前述した通りであるが、これらの一体的な関係をわかり易くするため、一つの比喩で説明することにする。
人が成長し生活していく姿を蒸気機関車の前進にたとえる。
蒸気機関車 | 人 |
種火<タネビ> | 精(先天の精) |
石炭 | 血 |
水・車軸の潤滑油 | 津液 |
蒸気 | 気 |
蒸気機関車は、圧力の高い蒸気の力をピストン運動に変えることによって、強力な推進力を生み出している。その原動力は蒸気である。
先ず、種火に火をつけて(先天の精、人の誕生)少しづつ石炭を投げ込み火力を強くし、一杯に満たした釜の水を次第に温め、休みなく石炭を補給して、最後は熱湯になったものから、爆発的に蒸気に転化させてエネルギーを発生させ、蒸気機関車の推力を生み出すのである。この間、石炭と水は絶えず補給しなければならない。石炭をよく燃焼させるためには必ず通気をよくしなければならず、それと同じく血が気に変化する過程においても気の協力が必要である。
また津液の粘度の高い部分は車軸の潤滑油として、機関車の前進を助ける。このように、蒸気、石炭、水、種火(気、血、津液、精)が一体となって蒸気機関車の推進、つまり人体の成育維持に協調し関与している。この場合、気は先頭に立って血、津液を引っ張っている。いわゆる「気は血の帥となす」、「気行れば血行る」である。