陰陽

1.陰陽の基本概念

陰陽とは、一切の事物すべてがもっている対立的事象であり、どのような事物もすべて陰陽対立の矛盾性があり、一切のものすべてがそうした矛盾の中で発展し変化すると考えられている。
《素問・陰陽応象大論》に、「陰陽は天地の道なり(宇宙、自然界の根本法則)、万物の綱紀なり(一切の事物の秩序や運営を維持するための規則で、この規則に沿って発展し得るもので、これにそむくことはできない)、変化の父母なり(万物が変化する根源)、生殺の本始なり(生長→発展→滅亡の過程の根本)、神明の府なり(万物が現わしている形と、変化するはかりしれない力が存在する所)。治病は必ず本に求む(病を治療するにあたっては、病状の変化の根本をよくみすえて、「陰陽」の二字に基準をおかねばならな い)。」と説明している。
明代の張景岳は《景岳全書・伝忠録》の中で、「凡そ病を診し、治を施すに、まず陰陽を審<ツマビラ>かにするは、乃ち医道の大綱となす。陰陽誤りなれば、治いずくんぞ差<サ>(間違い)あらんや。医術は繁雑なれど、一言をもってこれを述ぶれば、すなわち陰陽をいうのみ」とある。
この文章からもわかるように、陰陽というものは東洋医学全体を貫いており、もしも陰陽がなければ、東洋医学の理論はなく、弁証施治もありえない。

2.陰陽は万象を包括する

陰陽は違った二つの属性をもっている。この二つの矛盾した面は、すべての物事において、対立した面と相互に依存した関係がある。
《素問・陰陽離合論》に、「陰陽は、これを数うるに十なるべく、これを推するに百なるべく、これを数うるに千なるべく、これを推するに万なるべく、万の大はことごとく数うべからず、然れどもその要は一なり」とある。
つまり、天地陰陽の範囲は広く、宇宙間の一切の相対的な物事や現象は、みな陰陽で説明できる。たとえば陰陽を用いて道理を推論し発展させていくと、十より百へ、百より千へ、千より万へと際限がないが、要するにこれは対立して統一的な「陰」と「陽」という一点に帰一することにほかならない。

3.陰陽互根

陰陽は互いに対立的で、相互に依存し合っており、分割することはできない。この相互対立と依存があってはじめて、事物が発生し、活動し衰退していくことができる。
《素問・陰陽応象大論》に「陰は内にあり、陽の守なり。陽は外にあり、陰の使なり」(陰は中にあり内を守り、陽の働きを助けている。陽は外に出て使となって働いている。つまり、陰というものはお母さんのようなもので、しっかりと家庭を守って、安心してお父さんつまり陽が外で仕事に専念できるようにし、またお父さんは外でお母さんの手作りの弁当を持参して働きに精を出して一家の柱になっている。一家安泰はお母さん(陰)の内助の功にほかならない。)とある。(20世紀になって、人々は夫婦共働きによって、より多くの快楽を求めるようになり、この陰陽互根の関係はくずれつつある。誰が陰の役目を果すのだろうか・・・。) 
また「陽生じ陰長じ、陽殺<サッ>し陰蔵す」(陽気は生物を成長させるが、生物の成長の過程中にあっては、成長するための営養物質の陰の存在が必要である。もし陽気が衰えると成長は止ってしまう。冬になって温度が下がると陽気が衰え営養物質を転化できず、自然に陰も営養物質を貯め込んだままで、しばらくの間現状維持の状態で生長は止まる。温度が上って成長に適する時期になったら再び陽が活動して成長をはじめる。)
人体を例にとっていえば、陰は有形の臓腑、組織、器官であり、陽は無形の機能である。人体が活動する過程においては、営養物質を吸収し、またそれを消費して生活している。内臓器官で作られた営養物質を吸収し、エネルギーを補充発散して生活を営んでおり、これは陽の働きである。このような陽の活動がなかったら、営養物質が吸収されなくなり、それを利用し生きていく上でのエネルギーの発散ができなくなる。
営養不良の病人は、臓腑機能の衰弱によって食物中の営養分を充分に吸収できない。これは食物中の営養分の不足によって陰の供給が不足し、人体の消耗が過多になって陰陽の平衡が破れ、収支があわなくなったものである。
総じていえば内の陰は外の陽の基礎になるものであり、外の陽は内の陰を化し使いとなって働き、正常な機能を発揮している。この陰と陽は互いに転化し協力し、かつまた依存し合っている。

4.陰陽の消長

陰陽は静止し固定しているのではなく、相対的に矛盾し、発展につれて進退消長をくりかえしている。陰が衰えると陽が旺んになり、陽が旺んになると陰は衰えるというように、この二者は常に矛盾と闘争をくり返している。古いものが消失すると、しばらくすると新しいものが次第に芽ばえてくる。二者即ち陰陽の差が極端になり、有効な修正がなされないと、異状現象が現われ、人体は病態になる。
人体へのエネルギーのとりこみを例にとると、エネルギー源としての供給物質の吸収によってエネルギーが発生することは承知の通りである。エネルギー源としての供給物質の吸収は、陰が発展していく過程であり、この時点ではエネルギーは消耗される。これを「陽消」といっている。エネルギー源としての供給物質が変化してエネルギーとなる時、エネルギー源としての供給物質は消耗される。これを「陰消」と呼んでいる。新しいエネルギーが生産されるのは、「陽長」の現象である。
陰陽の間は、このように成長、衰退の関係があるが、ただ際限もなく発展成長していくことではない。陰陽は偏盛偏衰していくが、相互に制約し合い、その消長関係は一定限度内で動的平衡を保って過大昂盛、過分沈衰を抑制している。


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