一口根付書評A 
「根つけと私」 会田雄次 南條範夫ほか 著

比較的安価に手に入るのですが、なかなかに面白い本です。

林家正蔵(先代の、本物の正蔵です)などが体験を下に根付についてのエッセイ?を書いています。
特筆すべきは現代の根付師(といってもすでに故人ですが)稲田一郎氏の創作風景を図版で収録しており、画像に収録された根付も一級品ばかりなので楽しい。

それと、明治時代の大量に輸出されていた時代の挿話が載っており、その文章によれば「糊で部品付けした根付が赤道を越えられず(糊が分解して)バラバラになって返品されてきた」話しや、「あまりの忙しさに家人に三度の食事の支度などしないで根付を彫るのを手伝わせ、食事は店や物を取ってすますほどの有様」などが記されている、当時の日本から輸出された根付の中には粗悪な品も混ざっていたという事が、この一文からも判る。

もちろん、このような粗悪品が全てではなく、同時代に素晴らしい職人もいた訳だが、そもそも根付という物が、庶民の使う雑器であった訳であり、文明開化の頃の日本は、ちょうど現在の後進国と同等位の文明度、モラルだった訳で、明治期の根付に時々酷い品があるのには、上記のような理屈があるのだという事がうかがい知れる。

当時の日本人にとっては「輸出品」であった訳だし、ちょうど中国の工場で大量の「チョコエッグ」のようなミニチュア玩具を生産していたような事象であるので、根付という物のある一面を表していると言える。

イギリスやフランスに逸品をすべて持ち去られたように言う人がいるが、どっこい日本人はそうそう馬鹿ではなく、海外の注文に合わせて、いわば彼らの好みに合う題材で、さらに一見良く見えるが、根付としての実用を離れてしまっているような珍奇な図柄の、しかも粗製乱造した物を混ぜて輸出していた、という事ですな。

また、一方で、そういう中に、本当に現代人が見ても驚くような、異様な情熱を込めて作られている根付がある、というところが実に素晴らしいと思う。日本人という種族の、多面的な不思議さがこんなところにも感じられます。

あまり読むところの少ない本ですが、安いので読んで損は無いと思います。

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