一口根付書評@ 
「石見派の根付彫刻家たち 清水富春とその一門」 七田眞 著

浅学菲才な某が、それゆえに参考になった本を紹介してゆこうと思います。

石見根付と呼称される根付の作風を、代表的な根付師である清水富春とその一門を中心に解説している書です。

アマゾンの書評というかレビューでは酷い文言でけなされまくっていますが、書評はあきらかに誤り、知識のない方が書かれているので参考になさらないように。

要するにアマゾンのレビューを書かれた方は、本書に記載されている「山口」銘の根付や「玉石」銘などの近代に作られた、あまり筋の良くない品が掲載されているのを取り上げて「掲載されているのは殆どが中国製の偽物」と評されているのだが、この本の著者の方は、インターネットの無い時代に、ご自身で見聞きできる範囲で調べてこの本をまとめておられるので、多少その点を割り引く必要がある。

たしかに何点か、現代の石見派の作家として紹介されている根付は、現在なら容易に判断できる中国製の品物なのだけれど、富春、厳水、文章女などの作品の図録や、巻末に収録された清水厳(初代富春)に関する英文の章などは非常に参考になるし、労作であると評価出来る。

ネットが普及し、様々な画像を(博物館のウェブサイトやピンタレストやインスタグラムなどで)膨大な画像情報を得られる現代と、著書の過ごした昭和の時代とはあまりに状況が違うので、仮に著者が鑑定を誤って、何点か粗悪な根付の画像を掲載したからといって、この本を一方的にけなすのは、どう考えても根付の研究という公益に反すると思います。

逆に考えれば、この本に記載された「小林仙歩」氏などの明確に存在が確認され、かつ年代も断定された現代の根付師に関しては、石見の作風を受け継ぐ現代根付の作家として考えれば良いのであり、粗悪な中国、香港物と区別するための指標にもなろうと言う物であり、参考になるし、現在良くみかける「山口」「玉石」「仙歩」などの銘を付けられたものには偽物だけでなく、筋の良い本歌も含まれるということになり、「手の良い品」はいわゆる本物としても良いといえる(偽物を薦める訳ではない事は言うまでもない事だが)。

(加筆訂正 偽銘を彫って偽物をそれらしく見せかけようとする輩こそ非難されるべきであるが、判別も又困難なのはいうまでもないという意味である)

さらに、根付という物を考える上で考えなければならないのは、物の本に掲載されている根付は、美術的価値の高い一級本を多数掲載している事が常だけれど、実際には生活に密着した「雑器」に近い品物であるため、必ずしも名品ぞろいではなく、名品、雑品とりまぜて存在するところが「根付」の面白さでもあることである。(このことについては淡交社「根付」に詳細あり、後日同書も紹介予定)

ゆえに出来の良い一級品のみが「本物」、そうで無い物は「偽者」と断定してしまう事は全く恥ずべき事であると私は考えます。

アマゾンは現在の古書市場でかなり支配的な立場になってしまっているが、レビューを記入しているのはしょせん一般の方なので、あまりレビューを盲信しないように気を付けるべきだと思います。一応アマゾンのリンクも貼っておきます。


この本に若干不満が残るのは、石見根付が何故、猪の牙や、埋もれ木、琥珀、などのあまり他の地域では使用されない素材に彫られているのかが触れられていない点である。

私見だが、埋もれ木や琥珀などの使用については、石見地方は「石見銀山」で有名な地域なので、銀の採掘に伴い、地下に埋蔵されているこれらの材料について、他の地方よりも身近で、入手しやすかったのでは?と推察してみたのですが、地質学的知識に乏しいので妄言に過ぎません。

埋もれ木については、落語「金明竹」でも「柄前はタガヤサンや、と言うとりましたが、埋もれ木やそうで、木ィが違うとりましたさかい、ちゃんとお断り申し上げます。」とあるように、江戸時代から銘木の一種であったと思われるので、高級素材という事ではあると思うのですが、、、。

どなたかご教授くだされば幸いです。

根付という物の地域による差、という事を割り引いても、石見根付は非常に独特なので、追加の研究が待たれるところであるが、、、。

いずれにせよ、江戸時代までの日本は現代の中央集権的国家よりも、むしろアメリカ合衆国に似た複数国家の集合体であり、藩独自の文化、風俗があったことが根付からも判るわけですな。

アマゾンで上記の書物の購入はこちら(アフィリエイトではありません、あくまでも書物探索の助けとして貼っておきます)当方が出品している訳ではないので、売価や状態はアマゾン出品者へお問い合わせください。

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